悪役令嬢は最後に微笑む


『婚約者としてアーサー様に相応しいものを提供するようにと厳しく周りに注意するけれど、それは自分の傲慢さだと勘違いされ続ける。婚約者のわたくしが居る以上、周囲の貴族達に変に誤解されないようにと彼女に忠告して周囲から向けられる目をこちらに集めても、いじめられただのと決めつけられる。敵が増えていく感覚に、素直に気持ちを伝えることができなくなって、元から無に近い皆からの信頼がなくなり……最悪わたくしとの婚約は破棄すると言い渡される始末』


 知らなかった、リサリルの内に秘めていた想い。

 悪役令嬢になりたかった訳じゃなかったんだね。

 周囲から向けられる目に負けないように自分を強く持ち、公爵家の人間として恥じぬように振る舞っていたはずが、いつの間にか蔑まれ続けた結果、誰彼構わず威嚇して自分を守るしかなくなってしまったんだ。


『婚約が白紙になり公爵家令嬢の務めは果たせなくとも、使い手としては自分の責務を全うしたかった。こんなわたくしを選んでくださった、大精霊様のために。でも彼女は違った。彼女は精霊国に行く事を拒み、アーサー様と結ばれるために大精霊様の力を我が物にして、世界の秩序を壊そうとしていた』

 
「そんな……!」
 

『それを知った私は魔王に命を捧げ、この身を犠牲にしても、”神々が敷いた道≪シナリオ≫”から背こうとも、彼女の力の暴走を止めた。二人の使い手が暴走したことで、大精霊様はきっとお怒りになったでしょうね。本当に許されないことをしたと思っているわ。本当にごめんなさい。使い手としてもっと早く動けば、暴走を止めて多くの民の命を救えたかもしれなかったのに……あなたを絶望に突き落とさなかったかもしれなかったのに』


 静かに語るリサリルの言葉に、私は一つの映像が思い浮かんだ。亡骸が山になってしまった、闇に今にも包まれそうなそんな世界を。
 

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