悪役令嬢は最後に微笑む


 なんとなく心臓に悪い気がしてきて、そのまま回れ右して帰ろうと思ったけれどその動きを取る前に青年に手を取られた。


「この中には大切な物が入っていたんだ。誰かに盗まれていたら、大切な想い人に届けることが出来なかった。ありがとう」


「いっ、いえ!そんな、大したことはしてませんので!」


「いいや。俺の大切なものを守ってくれた。感謝してもしきれない」


 誰かに感謝されるのが久々なせいか妙に擽ったい。

 でも、青年の嬉しさがこちらにも伝わってくるようで私も嬉しくなる。


「無事に貴方の元に戻ってきて良かったです」


「お礼に何かしたいんだが……この後何か予定はあるか?」

 
「家に帰るつもりでいました」


「そうか。近くの店で少しお茶でも一緒にと思うんだが、どうだ?誤解ないように言っておくが、怪しい者ではないと誓う。まあ、そう言っても証明するものがないから説得力はないだろうが……でも、感謝を伝えたい気持ちは本物なんだ!」


 若干狼狽えながら言う青年の提案に、私は一瞬どうしようかと悩んだけれど、彼と一緒にもう少し居たいという自分の気持ちを素直に受け止めて頷いた。


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