悪役令嬢は最後に微笑む
少しでも長く居たい……そう思い始めると、体は勝手に遠回りの道を選んでいた。通らなくてもいい神殿近くまで通って、いかに長引かせる道を選ぶのに必死になっていた。
それでも別れの時は着々とやって来て、足取りはどんどん遅くなる。
何でこんなに別れたくないんだろう。
今日が楽しかったから?
一人が寂しいから?
何も知らない人だというのに。
身なりが良く、品のある動きを見れば何処かの高貴な貴族の一族であることは分かる。
でも、彼からも私のことを詮索してこないから、名前さえ聞けない。
何か彼にも事情があるから、自分から語り出してこないんだと悟る。
私にも人には言えない秘密を持っているんだから、お互い様。
深く知らない方がいい。知ってしまったら……きっともっと知りたくなるに決まっている。
「君の家に着いたよ」
声を掛けられて、はっと見渡せば見慣れた屋敷が目の前にあった。
もう、着いてしまった。