悪役令嬢は最後に微笑む
違和感の鎖が巻き付いているような、そんな感覚ばかりが私を締め付ける。
ファナと協力して、とにかく穏便にいかないと後輩が言っていた、破滅ルートまっしぐらだというのに……!どうして自由が利かないの?!
内心焦る婚約者である私に、呆れた視線を送るアーサーの視線が、いきなり険しくなった。
まだ何も言っていないのに、もしかして早速破滅ルート開拓してしまったのかと背中に冷や汗を流していると、私の足元から光が放たれると指先に柔らかい何かが触れた。
「?」
アーサーからの視線を逸らして、指先に触れた何かを確認するとそこには真っ黒で艶やかな毛並みをした狼が魔法陣の上に座っていた。
真っ直ぐにこちらを見つめてくる満月のような綺麗な色の瞳はとても澄んでいて、吸い込まれそうだった。
原作でこんな狼出て来たっけ……?
主人公が攻略キャラを選ぶまでは物語の冒頭は全部一緒なはず。私の知る限りではこの子の存在はまるで知らない。
でも、不思議と引き寄せられる力にそっと狼の額を撫でた。柔らかい毛並みは妙に心地好い。生まれて初めて間近に狼がいるというのに、恐怖心は無かった。