君の矢印【完】
side 律
ぐつぐつ、鍋の中で野菜を煮る音。
「うわぁ〜、いい匂い〜!」
いこいのうっとりした声が聞こえる。
それにしても近い。
鍋をかき混ぜると、匂いがさらに立つ。
鍋の前に立つ俺と、ずっと隣でにこにこしながら見ているいこい。
いや、いこいも作って?
可愛いからいいけど。
さっきまで俺にからかわれてあんなに怒ってたのにね。
いい匂いがしたら忘れちゃったみたい。
可愛すぎだろ。
「ねえ、一口食べていい!?」
待ちきれない、とキラキラした目でそう言ってくる。
…俺はお前を食べたいんだけど。
「ダメ。まだ出来ない。」
「味見!お願い〜〜」
全く、子供すぎるだろ。
こんなに広い家の中で、キッチンでこんなに密着してる状況だって分かってる?
理性を保つのに精一杯なんだから、余計なことはしないでほしい。
頼むから。