君の矢印【完】
「っ、」
ネクタイを結ぶ行為って、こんなに近づかないとできなんだっ…
やってる本人になればわかるけど、天音と律くんは毎日この距離にいたんだよね。
…すごい近い。
「まだ?」
「もうちょっと、…あれ?」
緊張して手が震える。
さっきの律くんの言葉がどうも胸に刺さって、練習通りにできない。
「はぁ…」
律くんの小さなため息が聞こえる。
「ご、ごめんっ」
ああ、ダメだ。
泣いちゃいそう。
ぐっと堪えて下唇を噛む。
…全然できない。
「自分にやるのと反対だから出来なくて…ごめんなさい…」
自分の首に巻いて、鏡を見て練習しかしてなかった。
だから人に結ぶのは初めてで、反対になること忘れてた。
「もういいよ、ありがとう。」
しょうがない、といった表情の律くん。
別にキツイ言い方じゃないけど、胸を切り刻まれた気分になった。
私はもういいんだって。