オレンジ服のヒーローは全力で彼女を守りたい
ゆったりとしたピアノのヒーリングミュージックが店内に流れる。

施術が終わった客が帰り、カウンターで事務仕事をしていたら、店長がひょこっと覗き込んだ。


「あおいちゃん、今日元気なくない?」

「えっそんなことないですよ」


顔を顰める店長に、慌てて笑顔を返した。


「予約がたくさん入ってたから疲れたのかしら」

「そうかもしれないです」


壁掛け時計を見れば、もうすぐ17時になる。

今日は昼食も口にかきこむくらい忙しかったから、時間の感覚があまりない。


「私夕食に牛丼買ってこようと思うんだけど、一緒に買ってこようか?」

「牛丼って、あのチェーン店ですか?」

「そう。なんか無性に食べたくてね」


店長が恥ずかしそうに肩をすくめて笑う。

牛丼店はここから10分ほど歩き、商店街を抜けた先にある。


「じゃあ私も店長と同じのお願いしてもいいですか?」

「わかった。行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


店長は制服を素早く私服に着替え、足早にドアの外へと出る。

店長も私も次の予約は18時からだ。

まだ時間はあるけど、予約時間よりもずいぶん早く来店する客もいるから、夕食は早めにすませなければならない。

今日はその予約客が終われば退勤だ。

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