ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 櫂人さんは付き合いはじめてからずっと優しくて、これでもかというくらいに私のことを甘やかし大事にしてくれた。

 こんな素敵な人が恋人でよいのだろうか。何度もそう思った。

 朝目覚めて、これまでのことが全部夢だったらどうしようと、メッセージのやり取りを確認したことも一度や二度ではない。

 そんな夢の中にいるような半年間を送ったある日。

『さやか、俺と結婚してほしい』

 一流ホテルのレストランでのフルコースは、てっきり誕生日のお祝いだからと思っていたため、驚きすぎて声が出なかった。
 そんな私に彼は、次の春には再び海外勤務になるだろうから、妻として一緒について来てほしいと言った。

 彼が一定の周期で霞が関の本省と、在外公館と呼ばれる海外にある日本国大使館や総領事館などでの勤務をくり返すことは、以前聞いて知っていた。

 プロポーズに喜んでうなずきかけたとき、頭に祖父とおかもとのことがよぎった。
 祖父を、家族を置いて海外に。
 そのことだけが喉の奥の小骨のように引っかかった。

 けれど祖父にも店にも頼りになる人がそばにいる。

 気がついたら首を前に倒していた。彼と離れるなんて考えられなかった。

 ずっと一緒にいたい。彼のことをそばで支えたい。

 そう心に決めて、甘く蕩ける夜に溺れたのだ。


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