ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 そういえば、あの頃もよく土日関係なく仕事をしていたっけ。いつか体を壊さないといいのだけど……。

「どれにしようかな――と、結構売切れてるな」

 私たちの間にあるガラスケースを見て残念そうにつぶやいた彼に、はっとした。そうだ、今はもうあの頃とは違う。彼はお客で私は店員だ。

「申し訳ありません。土曜日は午後二時までの営業で、この時間はどうしても売切れが多くなってしまうんです」

 人気の唐揚げ弁当やハンバーグ弁当以外にも、煮物やサラダなどの総菜も売り切れている。目ぼしいおかずは全部とも言う。

「そうか……残念だけど仕方ないな。じゃあおにぎりだけいただこうかな。梅とシャケをひとつずつ」
「はい。申し訳ありませんでした」

 仕方のないこととはいえ、せっかく来てくれたお客に弁当を渡すことができないのは申し訳ない。たとえそれが二度と会わないと思っていた元恋人だったとしても。

 要検討事項だわ。反省しつつ今後のことを考えていたら、彼が口を開いた。

「そうだな、悪いと思うならひとつお願いがある。きみの時間をくれないか」
「え?」
「少しだけでいい。話がしたいんだ」

 心臓がどくんと大きく波打った。真剣な目で見つめられ、返す言葉が出てこない。

 とにかく早く断らないと。そう思い、震える唇を開きかけたとき。

「どうかしたのか」

 聞こえた声に振り向く。奥で洗い物をしていた祖父が、手を拭きながらこちらにやって来る。

「おじ――店長」

 お客の前だということをギリギリで思い出し、うっかり「おじいちゃん」と呼びかけたのを言い直す。動揺していることをどちらにも悟られたくない。
< 17 / 93 >

この作品をシェア

pagetop