ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 ずいぶんと高くなった太陽の光が木々の隙間から降り注ぎ、あちこちから子どもの声が聞こえる。
 遊具のある場所と反対側の芝生の上では、拓翔より少し大きな男の子とその父親と思われる男性がサッカーボールで遊んでいた。
 ぼんやりとそれを見ながら、胸が鈍く痛んだ。

 本当だったら今ごろ、拓翔もああやってパパに遊んでもらっていたはずなのに。

 これまでなら、考えても仕方ないことだと見ないふりをしてきた気持ち。心の奥深くに閉じ込めて固くふたをしてきたのに、彼との再会でそれが緩んだのかもしれない。だけどそれを表に出すわけにはいかない。拓翔から父親を奪ったのは私。あのとき彼との別れを選んだ私に、悲しむ権利なんてあるはずがない。

 櫂人さんと予期せぬ再会を果たしたけれど、私は彼に拓翔のことを言うつもりはない。
 別れてからもう三年近くたつのだ。彼はすでに私とは別の道を歩んでいるし、きっと大切にしている人もいるだろう。それなのに今さら「あなたの子です」なんて言っても、彼を困らせるだけだ。

 そんなことを何度も考えながら、一方では別の理由もあった。もし彼が拓翔を自分の子として引き取りたいと言ったらどうしよう、と。

 もちろん私は拓翔を手離す気なんてない。絶対ない。

 だけど彼が今のパートナーと一緒に拓翔を育てると裁判所に訴えたりしたら、私に勝ち目はどれくらいあるのだろう。借金つきの弁当屋にいるよりも、高収入で安定した暮らしができる彼に引き取られた方が幸せだと見なされてもおかしくない。

 拓翔と離れ離れになるなんて絶対に嫌。そうならないために、この子の存在を知られるわけにはいかない。

 お弁当をじっと見降ろしながらそう考えていたとき。

「さやか……?」

 不意にかけられた声に弾かれるように顔を上げた私は、その瞬間息をのんだ。数メートル先には、今まさに考えていたその人が立っていたのだ。
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