ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「愛しすぎて我慢できなくなるだろ?」
櫂人さんとの約束から瞬く間に一週間がたった。
待ち合わせのコンビニに行くと、駐車場に止まっている真っ白なSUV車から彼が降りてきた。
白いTシャツの上から紺色のカーディガンを羽織り、グレーのチェックパンツを合わせたシンプルな装いが、彼のスタイルの良さを引き立たせている。スーツ姿のときとは全然違うラフな雰囲気に目が惹きつけられる。
「おはよう、さやか。たっくんもおはよう」
櫂人さんが爽やかな笑顔で拓翔の頭を撫でる。
「おはようございます。わざわざ迎えに来ていただいたのに、お待たせしてしまってごめんなさい」
電車で行くから動物園で待ち合わせにしようと言ったのに、彼は頑として迎え位に行くと言って譲らなかった。思ったより荷物が多くなってしまったので、迎えに来てもらえて助かった。
「俺もついさっき着いたところだから大丈夫。ここ、あの頃のことを思い出してなんだか懐かしいな」
「え、ええ」
付き合っていた頃、デートの後に車で送ってもらう場所はこのコンビニだった。おかもとの店舗と一体になっている自宅は、細い路地を入ったところにあるため車は入れない。
コンビニから家まで歩いて送るという彼の申し出を、断り続けるのはなかなか大変だった。昔気質の祖父に知られたら、色々うるさく言われると思っていたのだ。
車に乗り込んでシートベルトをしたところで、ルームミラー越しに彼と目が合った。どきっと胸が跳ねる。
「じゃあ、行こうか」
「ぱんらしゃん、れっつごー!」
拓翔はチャイルドシートに座ってすっかり上機嫌のようだ。我が家には車がないのでアトラクション気分なのかもしれない。このチャイルドシートは甥っ子さんを乗せるためのものらしい。小さな子どもの扱いに慣れているのはそのせいなのだと納得する。
ハンドルを握ったまま彼がルームミラー越しに視線をこちらに寄こした。
「本当に大丈夫だったのか?」
「え?」
目をしばたたかせると、彼が短く「仕事」と言う。
「あ、ええ……大丈夫です」
「ならいいんだけど。今の時期は注文で忙しいって言ってただろう? 無理させたんじゃないかと思って」
「いえ、そんなことはありません」
櫂人さんから動物園に誘われた日、一応祖父に定休日の予定を尋ねてみた。すると次の日曜は予約にキャンセルが出て、注文が半分以下になったという。
『そうなの?』という声がやけに明るくなったのは、拓翔が喜ぶ顔が見られるから……ということにしておこう。祖父も『行っておいで』と快く了承をくれた。
櫂人さんの丁寧な運転のおかげで、拓翔も少しもぐずることなくあっという間に到着した。