ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 北山さんがいなくなった後、いよいよ本格的に怪獣化しかけている拓翔を連れてテーブルコーナーへ向かった。
 広い園内には何か所か飲食スペースがあり、来園者は皆、売店で買ったものや持ち込んだものを思い思いに食べている。

 イスに荷物を置いた櫂人さんが、食べ物を買いに行くというのを慌てて引き留めた。

「お弁当を用意してきたのでもしよかったら一緒に、あ、でも無理にとは言わ――」
「食べる」
「え?」
「ぜひいただきたい。お言葉に甘えてごちそうになってもいいかな?」

 前のめりな返事がなんだかおかしくて、ふっと肩の力が抜ける。凍っていたなにかが溶けたような心地になりながら、バックの中から三段ランチボックスを取り出した。いつにも増して荷物が重たかったのはこのせいなのだ。

「おお! すごい豪華だ!」

 広げたランチボックスを見ながら櫂人さんが感嘆の声を上げた。

 おにぎり、サンドイッチ、唐揚げ、エビフライ、ポテトサラダにインゲンのごま和え、その他もろもろ。前に好評だった卵焼きは多めに入れてきた。

 おかもとで注文分の弁当を作るのを手伝いながら、このお弁当を作った。店主である祖父からは、キャンセルが出た分の食材が余ったらもったいないからとすんなり許可が下りたし、行楽弁当の残りもあったので手間はそこまでかかっていない。

「遠慮なく食べてくださいね」
「ありがとう。いただきます」
「いららいまっしゅ!」

 重なるふたりの声に、胸の奥から温かなものがじわりと込み上げる。
 櫂人さんは最初に唐揚げを箸でつまんだ。口に入れるのをドキドキしながら見守る。

「うまい!」

 ひと口食べてすぐ、彼の瞳がぱっと輝いた。

「よかったです」

 ほっと胸をなで下ろす。気合を入れていつもよりも早く起きた甲斐があった。
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