ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
彼の後ろ姿を目で追いながら、無意識に頬に手をやった。熱を持ったそこにはまだ彼の手のひらの感触が残っている。
『さやかは俺の大事な人だ』
あれはいったいどういう意味だったのだろう。
昔の恋人だから? それとも友人として? ひとりで拓翔を育てる私に同情しているの?
再会して半月ほどなのに、こんなふうに子連れで動物園に来るような関係っていったいなんだろう。
彼の言葉を、自分の都合のよいように書き換えたくなる。
「ダメよ……そんな勝手なこと」
プロポーズを受けておきながら一方的に別れを告げたのは自分。彼にとっては裏切られたようなものだっただろう。そのうえ彼の子どもを黙って産み育てている。そんな私が、今頃どの面を下げて彼に真実を話せるのだろうか。
『甘える』の意味をはき違えてはダメ。私が彼にできることなんてなにひとつないけれど、せめて輝かしい未来を邪魔したくはない。彼の重荷になるなんて嫌だ。
スピーカーからショーの声が聞こえてくる。どうやらヒーローショーらしい。
私のところからは人の壁でショー自体は見えないけれど、一番後ろでショーを見ている拓翔のことはよく見えた。背が高い櫂人さんが肩車をしてくれているので、人だかりの一番後ろでもよく見えるのだろう。今の間にテーブルの上を片づけておいた方がいいとわかっているのに、どうしてもそこから視線をはがすことができない。
これがあの日の続きならいいのに。
あのまま彼と結婚して拓翔を産んで、休日の今日は親子三人でお弁当を持って動物園に――。
「ばかね」
つぶやきがテーブルに落ちる。ありもしない妄想にふけってしまった自分が情けなくて、まぶたの裏が熱く湿り気を帯びてしまう。奥歯をきつく噛みしめた。
こんなところで泣いてはダメ。そろそろショーが終わってふたりが戻ってくる。拓翔の前では絶対に泣かないと心に誓っているし、櫂人さんにも気づかれたくない。
無理やり視線をはがし、テーブルの上に広げられたランチボックスを片づけることに集中した。
『さやかは俺の大事な人だ』
あれはいったいどういう意味だったのだろう。
昔の恋人だから? それとも友人として? ひとりで拓翔を育てる私に同情しているの?
再会して半月ほどなのに、こんなふうに子連れで動物園に来るような関係っていったいなんだろう。
彼の言葉を、自分の都合のよいように書き換えたくなる。
「ダメよ……そんな勝手なこと」
プロポーズを受けておきながら一方的に別れを告げたのは自分。彼にとっては裏切られたようなものだっただろう。そのうえ彼の子どもを黙って産み育てている。そんな私が、今頃どの面を下げて彼に真実を話せるのだろうか。
『甘える』の意味をはき違えてはダメ。私が彼にできることなんてなにひとつないけれど、せめて輝かしい未来を邪魔したくはない。彼の重荷になるなんて嫌だ。
スピーカーからショーの声が聞こえてくる。どうやらヒーローショーらしい。
私のところからは人の壁でショー自体は見えないけれど、一番後ろでショーを見ている拓翔のことはよく見えた。背が高い櫂人さんが肩車をしてくれているので、人だかりの一番後ろでもよく見えるのだろう。今の間にテーブルの上を片づけておいた方がいいとわかっているのに、どうしてもそこから視線をはがすことができない。
これがあの日の続きならいいのに。
あのまま彼と結婚して拓翔を産んで、休日の今日は親子三人でお弁当を持って動物園に――。
「ばかね」
つぶやきがテーブルに落ちる。ありもしない妄想にふけってしまった自分が情けなくて、まぶたの裏が熱く湿り気を帯びてしまう。奥歯をきつく噛みしめた。
こんなところで泣いてはダメ。そろそろショーが終わってふたりが戻ってくる。拓翔の前では絶対に泣かないと心に誓っているし、櫂人さんにも気づかれたくない。
無理やり視線をはがし、テーブルの上に広げられたランチボックスを片づけることに集中した。