ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
ショーが終わり再び園内を見て回った。
拓翔は終始機嫌よく元気に歩いていたけれど、さすがに疲れたのだろう。櫂人さんに抱っこされてペンギンを見ているうちに眠ってしまった。動物園を出て、車のチャイルドシートに寝かせてもなおぐっすりのままだ。
人見知りの拓翔が出会って間もない男性の腕の中で眠るなんて。口には出さなかったけれどとても驚いた。もしかしたら拓翔も幼いなりに無意識に櫂人さんとの血のつながりを感じているのだろうか。
そう思いながら後部座席に乗り込もうとしたところで「さやか」と声をかけられた。
「もしよければ助手席に乗ってもらえないかな。少し話がしたい」
話って……。
一瞬空いた間をどう捉えたのか、彼が困ったように眉を下げる。
「疲れて休みたいなら無理にとは言わないよ」
そんなふうに言われたら断ることなんてできない。今日私が拓翔と動物園を楽しむことができたのは他でもない、彼のおかげだ。
「大丈夫です」と返事をし、彼が開いてくれたドアから助手席に乗り込んだ。
「今日はありがとう」
滑らかに車を発進させた彼は、開口一番にそう言った。
「いえ、お礼を言うのはこちらのほうです。色々とありがとうございました。 連れて来ていただいた上に拓翔にお土産までいただいてしまって……」
ちらりと後ろを振り返る。眠っている拓翔が抱いているパンダのぬいぐるみは、櫂人さんに買ってもらったものだ。ギフトショップで見つけて、抱いて離さなくなってしまった。
「いや、よろこんでもらえたならいい。俺もなにか記念になるものを買おうと思っていたんだ」
「ありがとうございます」