ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「虜になるのは俺だけで十分」
「今日は来てくれて本当にありがとう。よろしくな」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」
日曜日の午前十時。五月もすぐそこだと告げるような青空の下、櫂人さんと挨拶を交わし、車に乗り込んだ。
『折り入って頼みがある』
動物園からの帰り、そう切り出した彼は続けて言った。
『パーティに同伴してほしい』
驚いたけれど、その場ですぐに断った。
いくらその場限りだとしても、彼の〝パートナー〟になるなんてできない。彼の隣には私よりもっと素敵な人が似合うし、彼がその気になればその相手はすぐに見つかるだろう。それくらい魅力的な人なのだ。わざわざ女子力の枯渇した私を選ばなくても困らないと思う。
それなのに、彼はなかなか引き下がらなかった。
最終的に、拓翔がいるからと断った。
やっと諦めてくれたと安堵したが甘かった。
翌日から、彼は〝お客〟としておかもとに足しげく通ってくるようになったのだ。
いつもピークを過ぎた時間帯にやってきて、弁当ができ上がるのを待つ間、あの手この手で誘ってくる。
『拓翔君も一緒で大丈夫だと主催の友人が言っていた』
『パーティは昼間だから明るいうちに帰れる』
『小一時間でいいんだ。もちろん責任をもって送迎もする』
相手はお客ということもあるけれど、こんな時間までお昼を食べていなかったのかと思えば無下にすることもできない。できるだけやんわりと断りをいれつつ、諦めてくれるのを待っていたのだけれど――。
『いいじゃないか、さやか』
『おじいちゃん!』
いつの間に話を聞いていたのだろう。厨祖父が房から出てきた。
『そこまで言ってくださるんだ、せっかくだから行ってみたらいい。たっくんはわしが見といてやるから』
パーティがあるのは少し先の日曜日。その日はちょうど町内の商店組合の仲間内の集会があり、祖父はそれに拓翔を連れて行こうと思っていたらしい。古くから付き合いのある者同士、みな拓翔のことを孫かひ孫のようにかわいがってくれていて、会えるのを楽しみにしているそうだ。