ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「たっくんの方は大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫です。祖父と……あの子にとっては曾祖父ですが、じーじとのおでかけを楽しみにしていて、ご機嫌にバイバイしてくれましたから」

 それはそれで寂しくないと言えば噓になるけれど、拓翔の笑顔には救われている方が大きい。泣かれるのが一番つらいのだ。

「そうか、よかった。それなら安心して今日はきみを独占できるな」

 蠱惑的な笑みを向けられ、胸がどきっと大きく跳ねた。ただでさえ車内にふたりきりという状況に緊張しているのに、これ以上は心臓がもちそうにない。

「そ、そうだ! 私、こんな格好で本当に大丈夫でしょうか」

 話題を急転換した私に彼がきょとんとした顔になる。

「ん? さやかはなにを着ていてもかわいいけど?」
「え! いや、そういうことじゃなくて」

 慌てふためいていると、彼が肩を揺らしてくすくすと笑う。

「からかわないでください」

 むうっと膨れた顔の私とは逆に、彼は始終にこにこ顔だ。

「からかってないよ。この前のアクティブな格好もよかったけど、今日の服装もよく似合っている」

 手放しに褒められ、見る見る顔が熱くなっていく。

 拓翔を産んでから普段着しか買っていなかったせいで、なにを着たらいいのかかなり悩んだ。さすがに動物園のときのような軽装というわけにはいかない。
 そう思って手持ちの中で一番きちんと見えるブラウスとスカートにしたものの、今の彼とつり合いが取れているとは到底思えない。

 彼は青みがかったグレーのヘリンボーンの三つ揃えに、ライトブルーのシャツにビンテージ調のプリントタイを合わせていて、カジュアルな雰囲気を出しつつも、ドレスコードのある場所でもなんら問題ない装いである。

 彼とのバランス以前に、これから訪れるパーティにそぐわないのではと一気に不安になった。

「大丈夫。言っただろう? 『さやかはなにも気にせず身ひとつで来てくれたらいい』って」
「でも」
「さやか」

 反論を遮るように名前を呼ばれ、目が合うとにこりと微笑まれた。

「パーティの前に少し付き合ってほしい所があるんだ。いいかな?」

 許可を求める口ぶりとは裏腹な有無を言わせぬ笑顔に気圧されて、ついうなずいてしまった。
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