ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
それから彼は都内を縫うように車を走らせ、都内有数の商業エリアへ。歴史ある土地柄で、老舗の百貨店はもちろん、海外ブランドの日本一号店も出されている。〝洗練された大人の街〟というのがぴったりな場所だ。
都内に住んでいながらそのイメージに尻込みして、これまで足を向けたことはなかった。
「あ、時計台!」
興奮のあまりうっかり声に出してしまい、慌てて口を押える。これじゃまるで初めて東京に来た観光客じゃないか。
隣からくすくすと笑う声が聞こえ、収まったばかりの熱が戻ってくる。
「俺もここに来るのはずいぶん久しぶりだよ。日本を留守にしていた間に色々と変わってるな。さやかは俺の分までしっかり見ておいて」
運転中の彼にそう言われ、赤い顔で「はい」とうなずく。
「こんなところでそんなに喜んでくれるのなら、付き合っているときにも一緒に来ればよかったな」
「別にそんなことは……」
言われてみて初めて、ここにはデートで来たことがなかったことに気づいた。きっと七歳下の私に合わせてくれていたのだ。
この街に違和感のない大人の女性だったら、彼もきっとここをデートの場所に選んでいたのだろうな。
あのまま彼と結婚していたら私もそんな女性になれていたかな……。
窓の外を流れていく景色を見ながら、今さら考えても仕方のないことばかり考えてしまう。
気づくと車は駐車場に入り、促されるまま下りて案内された場所に目を見張った。
「あの、これはどういうこと」
続きを口にする前に私達の入店に気づいたスタッフが「いらっしゃいませ」といち早くやって来た。櫂人さんが名前を告げると奥へと案内される。
白を基調とした明るい店内に、等間隔に黒い革張りのイスと大きな鏡が並んでいるのを横目にしつつ通されたのは、六畳ほどの個室だった。
壁際にはダークブラウンのソファーが置かれ、天井からはクリスタルがきらめく小ぶりなシャンデリアが下がっている。正面の壁一面に取りつけられた鏡の前に、大きなオフホワイトのイスとシャンプー台が無ければ、高級クラブの個室に来たのかと思っただろう。
都内に住んでいながらそのイメージに尻込みして、これまで足を向けたことはなかった。
「あ、時計台!」
興奮のあまりうっかり声に出してしまい、慌てて口を押える。これじゃまるで初めて東京に来た観光客じゃないか。
隣からくすくすと笑う声が聞こえ、収まったばかりの熱が戻ってくる。
「俺もここに来るのはずいぶん久しぶりだよ。日本を留守にしていた間に色々と変わってるな。さやかは俺の分までしっかり見ておいて」
運転中の彼にそう言われ、赤い顔で「はい」とうなずく。
「こんなところでそんなに喜んでくれるのなら、付き合っているときにも一緒に来ればよかったな」
「別にそんなことは……」
言われてみて初めて、ここにはデートで来たことがなかったことに気づいた。きっと七歳下の私に合わせてくれていたのだ。
この街に違和感のない大人の女性だったら、彼もきっとここをデートの場所に選んでいたのだろうな。
あのまま彼と結婚していたら私もそんな女性になれていたかな……。
窓の外を流れていく景色を見ながら、今さら考えても仕方のないことばかり考えてしまう。
気づくと車は駐車場に入り、促されるまま下りて案内された場所に目を見張った。
「あの、これはどういうこと」
続きを口にする前に私達の入店に気づいたスタッフが「いらっしゃいませ」といち早くやって来た。櫂人さんが名前を告げると奥へと案内される。
白を基調とした明るい店内に、等間隔に黒い革張りのイスと大きな鏡が並んでいるのを横目にしつつ通されたのは、六畳ほどの個室だった。
壁際にはダークブラウンのソファーが置かれ、天井からはクリスタルがきらめく小ぶりなシャンデリアが下がっている。正面の壁一面に取りつけられた鏡の前に、大きなオフホワイトのイスとシャンプー台が無ければ、高級クラブの個室に来たのかと思っただろう。