ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「ごめん、調子に乗りすぎた」

 温もりに包まれて安堵し、涙がぽろぽろとあふれ出す。櫂人さんは指でそれを拭った。

「きみに触れられると思ったら歯止めが利かなくなった。これじゃああのときの二の舞だ」

 どういうこと?
 申し訳なさそうに眉を下げる彼をじっと見つめると、彼はなぜか視線を逸らす。そして言いづらそうに口を開いた。

「あの夜、初めての君に優しくしなければと思っていたくせに、理性を飛ばして本能の赴くまま朝までむさぼるように抱いてしまった」

 うぐ、と喉が詰まった音を立てた。見る見る顔が赤くなっていく。

「きみがあまりにかわいすぎて、途中から理性どころか頭のネジがどっかに飛んでいってしまったんだ。いや、きみが悪いと言っているわけじゃない。悪いのはきみの魅力に抗えない俺だ」

 至極申し訳なさそうに言われても困る。恥ずかしさから、もういいですと彼を止めようとしたが、

「それできみに愛想を尽かされたのかもしれないと、散々後悔した」
「そんなことっ」

 ない、と言う前に、彼がふっと鼻から笑みをこぼす。

「そのくせ、いざきみに触れることができた途端このありさまだ」

 まったくガキかよ、と滅多に聞かない粗雑な言葉遣いに胸が高鳴る。取り繕わない彼の素が見えた気がした。

 もしかしたら彼は、付き合っているときからずっと自分を抑えていたのかもしれない。
 真綿でくるむように大事にしてもらえていたのは、年下で経験の少ない私に彼が合わせてくれていた証拠なのだろう。

 このままではだめ。手を取ってこの先を考えるのならば、お互いが対等でいるべきだ。

「……えないで」
「え?」

 聞き返され、頭が煮えそうに恥ずかしく、思わず彼の胸に顔をうずめたが、勇気を出して顔を上げる。

「抑えないで。ありのままの櫂人さんを教えてください。どんなあなたも全部愛したいのです」

 抱き着くように彼の背中に腕を回した。

「さやか」

 名前を呼ばれ、強く抱き締め返された。
 いったん腕を緩めた彼がのぞきこむように顔を傾けて「本当に?」と尋ねてくる。小さくうなずき返した。

「愛してる。五感すべてできみを確かめたい」
< 70 / 93 >

この作品をシェア

pagetop