ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「むしろ全世界に叫びたいよ」
日が西に傾いた頃、櫂人さんに送られてようやく帰路に着く。
濃密な時間の後、疲れ果てて彼の腕の中であやうくうとうとしかけたとき、彼が思わぬことを言った。
『送って行ったときに、おじいさんにご挨拶させてほしい』
そんなことをしたら祖父が激高して殴りかかるかもしれない。ひとまず私が事情を説明しておくから櫂人さんはその後にでも、と言ったが、彼は頑として譲らない。
一刻も早く拓翔に〝父親〟と名乗りたいし、祖父へもきちんと挨拶したいと言う。
近くのコインパーキングに車を止め、店舗の脇にある自宅玄関を開けた。
「ただいま」
声を聞きつけた拓翔が奥から走ってきた。
「ままぁ! おかえんしゃい」
「ただいま、拓翔」
「かいしゃん!」
私の後ろに立つ櫂人さんに気づいた拓翔が、目をきらきらと輝かせる。出会ったばかりの男性にそんな反応をするのは初めてだ。
「たっくん、こんにちは」
大きな手でわしゃわしゃと拓翔の頭を撫でながら、彼はいとおしげに目を細める。その表情が前にも増して優しげで、彼が拓翔を〝我が子〟だと思って接しているのがわかる。言いようのない感動が胸からこみ上げて、目頭が熱を持って潤みだす。
「帰ったのか、さやか」
奥から出てきた祖父が櫂人さんを見て、一瞬目を見張る。櫂人さんは会釈をし、今日一日私を連れ出したことへの礼を口にする。そして背筋をまっすぐに伸ばした。
「急な訪問で申し訳ありません。大事なお話があります」
彼の真剣な様子に祖父もなにかを察したのか、数秒ほど黙った後、私を見た。
「さやか。上がってもらいなさい」
言われた通り彼を居間に案内した。