ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 円卓を挟んで祖父の向かいに正座している彼に、後ろ髪を引かれながら台所でお茶の準備をする。

 祖父はあぐらに腕組みのままなにも言わない。重たい空気が充満する部屋の中で、拓翔だけちょこちょこと動いていた。この家に櫂人さんがいることが不思議なようで、何度も私と彼の間を行ったり来たりしている。

 ふたりにお茶を出し、櫂人さんから人ひとり分空けたところに腰を下ろす。櫂人さんが居住まいを正し、口を開いた。

「さやかさんと結婚させてください」

 驚いてお盆を落としそうになった。

 まさかいきなりそんなところから切り出すなんて。

 祖父も一瞬目を見張ったが、すぐに真顔に戻した。

「さやかももういい大人だ。祖父のわしが結婚にとやかく口を出すもんでもない。祖父のわしが言うのもなんだが、この子は気立てがよくてべっぴんだ。あんたのような真面目でしっかりした相手に任せられたらとつねづね思っとった」

 驚いた。そんなふうに思ってくれていたなんて。
 今までそんなこと祖父の口からきいたことはなかった。

 櫂人さんとのこと、賛成してもらえるの?
 淡い期待が頭をかすめるが、 そんなに甘くはなかった。

「だが。さやかと結婚するということは拓翔の父親になるということだ。他人の子どもを育てるのは並大抵のことではできん。あんたにその覚悟があるのか」
「そのことでお話があります」

 間髪入れずそう返した櫂人さんに、心臓がどくんと波打つ。彼は真っすぐに祖父を見据え、硬い表情で口を開いた。

「拓翔君の父親は私です」

 両目を大きく見開き言葉を失っている祖父に、櫂人さんは落ち着いた声で話しだした。
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