ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 そういえば、ここで暮らすようになって最初の日にびっくりしたのは、食器や調理器具は最低限のものしかないのに、なぜかダイニングテーブル用のベビーチェアやベビー食器などはしっかりあった。

 彼は甥っ子が使わなくなったものをもらったと言っていたが、それにしては傷ひとつないものばかりだし、食器に至ってはパンダ柄だ。そのことを指摘しても、彼はにこにこしながら『使ってもらえてよかった』と言うだけだ。

 もしかしたら車についているチャイルドシートも……と思ったが、なんとなく確認しそびれたきりになっている。グレイ大使の注文弁当の方が気になっていたのだ。

 櫂人さんに相談した結果、彼に一任することとなった。大使に事情を説明して数を減らせないか交渉してくれるそうだ。
 その上、残念ながら注文を断られた場合に備えて、代わりに請け負ってもらえる店も探しておいてくれると言う。忙しい彼にそこまでしてもらうわけにはいかないと断ったが、『俺を信じて預けてほしい』と言われ、結局甘えることにした。

 彼にばかり頼ってはいられない。私も祖父に相談してみよう。幸いなことに腹腔鏡手術で済んだため、術後の経過は順調だ。元気すぎて早くも病院は暇だとぼやいているほどだ。

 今日は自分の口で祖父に櫂人さんのことを話そう。彼がどれだけ真摯に私達のことを考えてくれているのかを知れば、祖父だってきっとわかってくれるはずだ。

 何度でも話をしよう。たとえ反対されたとしても諦めたりしない。今度こそ彼と幸せな家庭を築くんだ。
 
 心に固く誓いながら、拓翔を連れて病院へと向かった。


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