ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 外務省で働く彼との最初の出会いは今から約四年前。
 彼が私の勤める語学教室に通いはじめたのがきっかけだった。

 カナダのトロント日本国総領事館での勤務を終え、霞が関の本省に戻ってきた彼は、せっかく身につけたフランス語を忘れたくなかったそうだ。

 Englishクラス担当だった私は、彼のレッスンに直接かかわっていたわけではない。
 けれど受付や事務も業務のひとつになっていたため、シフトの関係上、土曜の最終レッスンを受ける櫂人さんと顔を合わせることが自然と多くなったのである。

 実のところ、私はひと目見たときから彼のことが気になっていた。

 テレビや雑誌から抜け出てきたかのごとく端麗な容姿。柔和で洗練された物腰。
 日本人離れした体格で上質なスーツに身を包んだ彼は、〝仕事ができる大人の男性〟だ。
 そんな彼に憧れを抱かずにはいられなかった。

 けれど七歳も年下の地味で平凡な自分を相手にするはずがない。それくらい私にだって分かっていた。

『素敵だな。かっこいいな』
 そうひそかに胸ときめかせつつも、あくまで彼は〝心のうるおい〟なのだと自分に言い聞かせていた。

 だから彼に告白されるなんて思いもよらなかった。
 夢かと思った。思わずその場で自分の頬をつねったほどだ。

 もちろん私に断るという選択肢はなく、晴れて恋人同士となった。
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