ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 隣に視線を移すと、叔父に寄り添うようにして同年代の女性と十歳くらいのかわいらしい女の子が立っている。

 叔父が言っていた『紹介したい人達』とは彼女たちのことだった。

 三年前のあの日。叔父が突然いなくなったのは、元恋人の美咲(みさき)さんが倒れたと知ったからだった。

 しかも彼女は十年前にやむを得ない事情で別れ、その後叔父の子をひそかに産み育てていた。
 叔父は衝動的に彼女のところへ向かった先で娘の存在を知り、入院治療が必要な美咲さんを助けながら娘と暮らすことを決めた。

 叔父がずっと独身だったのは、彼女のことが忘れられなかったからなのだろう。

 本当はすぐにでも祖父に事情を説明しに帰ろうと思っていたものの、直前にした言い争いのせいで帰りづらく、さらに慣れない土地での家事育児に精いっぱいで、気づいたら時間がたち、帰るきっかけを失ったという。

 美咲さんの病気が無事に快復し、叔父はあらためて彼女にプロポーズをした。
 けれど美咲さんはそれを受け入れなかった。籍を入れるのは家族の許しを得てからだと、頑として譲らなかったらしい。

 叔父は腹をくくって家に戻ろうとしたが、おかもとは長期休業中だった。なにがあったのか驚いて家の周りをうろついたものの、鍵を忘れてきたことに気づき、いったん引き上げたそうだ。

 不審者の正体は叔父だった。

 ほっと安堵した後、なんと人騒がせな! と憤慨した。私がどれだけ怖かったと思うのだ。

 それを聞いた櫂人さんは『おかげですぐにきみたちと暮らせてラッキーだったな』と笑った。

 それからしばらくして、祖父と美咲さん達との顔合わせが済み、叔父は今度こそ美咲さんと籍を入れ、一家そろっておかもとに戻ってくることとなった。

 失踪したときに持ち出したお金をきっちり揃えて返した上で、これからは店のローン返済に励むと誓ってくれた。
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