変 態 ― metamorphose ―【完】
「なんで腹壊すくせに、つめたいもんばっか食べるの」

「だって夏だし。ところで、ここのエアコンはいつ直るの」

「もうとっくに直ってるけど」

「それなら、なんでつけないの」

「汗だくでするのが好きだから」

「はあ?」

「汗だくがいい」

変態。
ぼそっとつぶやくと、綴の左手があたしの腹をくすぐった。
綴を真似て「だめてよ」と訴えれば、左手はさらにあたしを構った。

日に焼けて少し軋む髪に、人差し指が潜り込む。
親指が唇のふくらみをなぞって、中指で耳朶を軽く弾かれた。

お返しにシルバーリングに抱かれた薬指に唇を這わすと、綴の眉は微かに切なく寄った。
素直でかわいい薬指。

「なにしてる人なんだっけ、その人」

「またチカくんの話? よくわかんない。文章を書く仕事、とか言われた」

「それってライターとか作家ってこと?」

「さあ? ペンネーム聞いたけど忘れちゃった」

「すごいじゃん。俺、自分には文才ないから、文章書いて飯食ってるなんてすごいと思うよ」

それはあたしも同感だった。だけど
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