変 態 ― metamorphose ―【完】
重なった唇はいつもより少し強引で、すぐに吐息がこぼれだして瞼が溶けた。
濡れた唇がいち花、と甘く囁いてTシャツの裾に指先が忍び込む。

焦れるように腹から肋骨へと駆けのぼった指先は、そのまま背中へ回ってブラジャーのホックを外した。
その鮮やかな指さばきに、ああ。やっぱり綴って器用だな、と流されかける。

「ちょ……ちょっと待って。ここ、カラオケだよ? 監視カメラとかだってあるだろうし」

「うん。それで?」

綴は感情なく言って、緩くなったワイヤーの下からにゅっと手を滑り込ませた。
手のひらで胸を包まれ、背中がぞくりと浮いた。

「ほ、本当にっ。本当にやめて!」

ペットに「待て」をするように、両の手のひらを向けて綴を止めた。
身体を押しのけて、拒絶するかのような体勢。

室内は急速に静まり返り、綴は哀しそうに瞳を揺らしながら離れていった。
ソファーが軋み、さっきまですぐそこにあった体温が消えた。
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