変 態 ― metamorphose ―【完】
「さて、私はそろそろ帰るけど、いち花とチカはもう少しゆっくりしていったら?」

食後のお茶を飲みながら、あっちゃんが言った。


「でも、次のお客さんだっているんじゃないの?」

「今日は()いてるから延長してもいいって、さっきお店の人に聞いたから大丈夫よ。チカ、いち花を家まで送っていってね」

そう言って、あっちゃんは帰ってしまった。
あたしはとたんに呼吸の仕方を忘れる。

チカくんに会うのは、あの海の日ぶりだった。

「しっ、仕事は」

思い切り噛んでしまった。
出だしからもう、うまくいかない。

チカくんはゆっくりと、仕事? と訊き返した。

「うん。仕事は、終わったの? この前、重い仕事が入ったって言ってたから」

「なんとか終わったよ。おかげで肩がすごい。バキバキ鳴る」

「そうなんだ。大変だね」

あたしはいままでどんなふうに相槌を打って、どんな顔をチカくんに向けてた?
不自然になっていないか、不安に襲われる。
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