変 態 ― metamorphose ―【完】
「ちゃんと……。ちゃんとツッコミとか入れてよ、チカくん。そうじゃないと、あたしがひどい人みたいになっちゃう」
「だって、うれしかったから」
穏やかな雨のような声が降りそそいだ。
その余韻に浸ったりしないように、あたしは急いで「そういえば」と切り出した。
たった五文字を発する間に、脳みそをフル回転させて適当な質問を引っ張り出す。
「チカくんって、どうして小説家になったの?」
「ああ……。輝子さんが」
また、ママだ。
すぐにそう思ってしまった。
ママの法要の日に、いったいあたしはなにをやってるんだろう。
自分のなかが空っぽになって、真っ黒に塗りつぶされていく。
視界を覆う歪んだフィルター越しのチカくんが、頬をゆるませる。
「ちいさい頃、輝子さんの誕生日に手作りの絵本をプレゼントしたらすごく褒めてくれたんだ。絵本っていっても、たいしたものじゃなかった。子どものつくるものだから。それでもたくさん褒めてくれて、絵本をつくっては輝子さんに見せてた。それが、きっかけかな」
「だって、うれしかったから」
穏やかな雨のような声が降りそそいだ。
その余韻に浸ったりしないように、あたしは急いで「そういえば」と切り出した。
たった五文字を発する間に、脳みそをフル回転させて適当な質問を引っ張り出す。
「チカくんって、どうして小説家になったの?」
「ああ……。輝子さんが」
また、ママだ。
すぐにそう思ってしまった。
ママの法要の日に、いったいあたしはなにをやってるんだろう。
自分のなかが空っぽになって、真っ黒に塗りつぶされていく。
視界を覆う歪んだフィルター越しのチカくんが、頬をゆるませる。
「ちいさい頃、輝子さんの誕生日に手作りの絵本をプレゼントしたらすごく褒めてくれたんだ。絵本っていっても、たいしたものじゃなかった。子どものつくるものだから。それでもたくさん褒めてくれて、絵本をつくっては輝子さんに見せてた。それが、きっかけかな」