変 態 ― metamorphose ―【完】
「あー。気持ちいい……」

あたしの首元にぎゅっと顔を(うず)めて言った。
その口調が温泉に浸かってるおじさんみたいで、少し笑ってしまう。

「あ、ういろう食べきったよ。うまかった」

「それじゃあ綴の誕生日には、ういろうをプレゼントするね」

「それはいらないかな」

綴が話すたびに、肩や首になまぬるい息がかかって、なんだかむずむずする。
だけど綴がずいぶんとぐったりしているので、これくらい我慢してあげるか、という気になる。

そんなに忙しいのかな。
ライブはそこまでいっぱい入っていないはずだけど、新曲でもつくってるんだろうか。
バンドマンの忙しいがどういう忙しいなのか、よくわからない。

もしかしたら葛見さんが無理やり飲み会に誘ってるんじゃないか、と勘繰ってしまう。

髪を撫でると、いつもより少しごわついて指に引っかかった。
疲れて、ちゃんと髪を乾かさないで寝てるのかもしれない。
部屋のなかも、いつもよりどことなく散らかって見える。

誕生日にはういろうじゃなくて、なにか疲れがとれるようなものをあげよう。
マッサージ器はさすがに色気がないかな。実用的だけど。
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