変 態 ― metamorphose ―【完】
クローゼットをひらけば、相変わらず真っ黒な服しか並んでいなかった。
これじゃ着たい服を探すのも大変そうだ。

「Tシャツ、その右側のとこにしまってあるから。どれ着てもいいよ」

わかった、と返事をして手をのばすと、一枚だけ白いTシャツを見つけた。

「これ、どうしたの。白なんてめずらしいね」

「あー、うん。ファンの人がプレゼントしてくれて。でも、やっぱり白って着る気になれないんだよな」

「着ないと失礼だよ」

「そうは言ってもさ」

「着なよ」

「わかったよ」

綴はごろんと寝転がり、ふたたびあたしに背中を向けた。

自分は有名じゃない、と綴は言うけれど、こうやってブランド物のTシャツをプレゼントするくらい、綴に熱中している人がいる。

いったい、いくらするんだろう。
もらったとき、綴はどう思ったんだろう。

ぎゅっと目をつむり、瞼に焼きついてしまったブランドのロゴマークをどうにか追い払う。
ファンはファンだとわかっていても、こんなに高価なプレゼントを目の前にして、なにも感じずにはいられない。

口では「着なよ」なんて言ったけど、そんなのは建前だ。
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