変 態 ― metamorphose ―【完】
半疑問形で返されたり、ピンポン玉のラリーのように即座に返されたり。
なんだか、綴がつかめない。
かえちゃんと会うのは別の日にした方がよかったのかもしれない。

「じゃあ、帰るね」

後ろ髪を引かれながら玄関に向かおうとすると、とつぜん綴がむくりと起き上がった。

「どうしたの?」

綴は眉を下げ、躊躇いがちに口をひらいた。

「もうちょっと、待ってて……」

縋るような瞳に、胸がさざめいた。

待つって、いったいなにを?

困惑していると、綴はすぐに笑顔になって「かえちゃんによろしく。俺に貸しつくったってこと、しっかり言っておいて」といつもの調子で言った。

あたしは、なにを待てばいいんだろう。

綴から借りたTシャツは肩も袖も思っていたよりぶかぶかで、抱いてしまったわだかまりは、黒いTシャツのなかをゆらゆらと揺蕩(たゆた)った。
< 194 / 286 >

この作品をシェア

pagetop