変 態 ― metamorphose ―【完】
「ああ、それね……」

かえちゃんは口ごもり、くるんとカールされた長い睫毛を伏せた。

よほど話しづらいことなんだろうか。
まさか、浮気現場で鉢合わせた、なんてドラマのようなことでも起こった?

あたしはかえちゃんが話し出すのを静かに待った。
圧をかけないように、ときおりカフェラテを飲んで、ときおり外を眺めて。

それでもかえちゃんは、なかなか口をひらかない。
キャラメルフラッペをやっぱりストローでぐるんぐるん回しながら、小動物のように眉を寄せている。

まずはあたしからなにか話して、雰囲気づくりした方がいいんだろうか。
だけど、こんなときにはどんな話題を振ったらいいんだろう。

周囲をちらちらと見て、なにか話のネタになるものはないか探してみた。
隣の席のテーブルには見覚えのある小説。
背表紙に印字された名前を確認して、確信を持つ。

胸に刺さったままのやさしい棘は、そろりと疼いた。
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