変 態 ― metamorphose ―【完】
綴がいるのに、チカくんが男の人に見えてしまった罰。
だとしたら、あたしに綴を責める資格はあるだろうか。
チカくんとやましいことは、なにひとつしていない。
でも、それでも。
そうだとしても。
「……ねこ」
ふいにチカくんがつぶやき、あたしは一瞬、なにを指しているのかわからず、ああ。猫か、と考えてから顔を上げた。
大きな窓から降り注ぐ午後いちばんのひかりが、チカくんとあたしを包む。
「いち花。猫、見に行こう」
「え、見に行こうって……」
チカくんはなにも言わず、すっと立ち上がってリビングを出た。
よくわからないまま、あたしはその背中を追いかける。
玄関を出たチカくんは、慣れた足取りで細い路地に入っていった。
背の高い建物に囲まれ、灰色の影が重なったその道は、まだ昼間だというのに薄暗い。
空を仰げば太陽は遠くて、まるで隔離された空間だった。
ふと、どこからか視線を感じた。
辺りを見回すと、室外機の下で丸まった茶虎猫が、じっとあたしを見つめていた。
だとしたら、あたしに綴を責める資格はあるだろうか。
チカくんとやましいことは、なにひとつしていない。
でも、それでも。
そうだとしても。
「……ねこ」
ふいにチカくんがつぶやき、あたしは一瞬、なにを指しているのかわからず、ああ。猫か、と考えてから顔を上げた。
大きな窓から降り注ぐ午後いちばんのひかりが、チカくんとあたしを包む。
「いち花。猫、見に行こう」
「え、見に行こうって……」
チカくんはなにも言わず、すっと立ち上がってリビングを出た。
よくわからないまま、あたしはその背中を追いかける。
玄関を出たチカくんは、慣れた足取りで細い路地に入っていった。
背の高い建物に囲まれ、灰色の影が重なったその道は、まだ昼間だというのに薄暗い。
空を仰げば太陽は遠くて、まるで隔離された空間だった。
ふと、どこからか視線を感じた。
辺りを見回すと、室外機の下で丸まった茶虎猫が、じっとあたしを見つめていた。