変 態 ― metamorphose ―【完】
そっちが先に見ていたくせに、なに見てんのよ? というような、ふてぶてしい顔つき。

チカくんが忍び足で猫に近寄る。
どこから取ってきたのか、手には猫じゃらし。

いいな。気を引くにはいいアイテム。

そう思ったのも束の間、猫はさーっと走り去ってしまった。

所在なげな猫じゃらし。
すっかり肩を落としたチカくんが、あたしの方を振り返る。

「ごめん。逃げられちゃった」

「チカくんのせいだよ。あの子、あたしのこと見てたのに」

「この辺りはけっこう猫がいるから、他の子を探そう」


それからチカくんとあたしは、辺りをぐるぐると歩いた。

すまし顔のぶち猫、色鉛筆で描いたようなキジトラ猫、まるまるしたハチワレ猫。
どこから盗ってきたのか、鯖を咥えたサバトラ猫までいた。

猫たちは自由で気ままで奔放で。
だけどその一方で、甲斐甲斐しく子猫の毛繕いをして。
なんだかママみたいだと思った。

「この辺り、なんでこんなに猫がいるの」

「小説家がたくさん住んでるんじゃないかな」

「それなら、やっぱりチカくんも猫を飼わなきゃね」
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