変 態 ― metamorphose ―【完】
――七時に来て。
綴はあたしに会おうと言って、場所と時間を指定してきた。
自分は寝過ごしてドタキャンしたくせに。
なんなんだろう。
別れ話でもされるんだろうか。
秋の夜の新宿は、濡れた雑巾のようにじっとりしていた。
どこもかしこも、負の匂いしかしない。
苛立ちと不安と恐怖でいっぱいになってしまった身体が重い。
いっそ感情がはち切れて、身体ごと爆発してしまえばいいのに。
そしたらなにも感じなくてすむのに。
綴の指定したお店に着くと、闇夜のようにひっそりした店内を赤や黄の葉をつけた木々が灯籠のように紅く灯していた。
精巧な造りのフェイクの紅葉は、びっしりと天井まで続いている。
「いらっしゃいませ」
品のいい店員ににこやかに微笑まれ、予約していることを告げると、綴はまだ着いていないと言われ、個室まで案内された。
ふたりで会うにしてはけっこうな広さがある。
まさかあの女の人も、綴といっしょにここへ来たりして。
それか、今夜もまたドタキャンされたりして。