変 態 ― metamorphose ―【完】
あたしはすっかり自分を苦しめる想像がうまくなった。
窓のない部屋で閉塞感に押しつぶされる。

「ごめん。待たせて」

五分遅れでやってきた綴は、夜だというのにサングラスをかけてキャップを被っていた。
おかげで一瞬、知らない人かと身構えてしまった。

こういう格好、する人だったかな。
そう思ってから、あの女の人の好みか、と腑に落ちた。

綴がキャップを脱ぐと、キャップなかに収められていた髪がさらりと宙を舞って、弧を描いた。
嗅ぎ慣れたシャンプーの香り。
嗅ぐのはこれが、最後かもしれない。

きれいな髪だと思った。
きれいな男だと思った。

どうしてあたしなんかを好いてくれるんだろう、とずっと思っていた。

きっと綴の目にはなにか特殊な、なにかおかしなフィルターがかかっていて、あたしみたいな人間がちょっといい人間に見えてしまっていたんだ。
経年劣化したフィルターがはらりと剥がれ落ちて、やっと正しい視覚に変わったんだ。

これまでが奇跡で、これからが現実。
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