変 態 ― metamorphose ―【完】
「ねえ、さっきのバンドの話なんだけどさ。それっていまのベースの人が辞めて、代わりに綴が入るってことだよね? その人はなんで辞めるの?」

「ちょっと、問題を起こしたみたいで」

綴はうつむいた。

「問題って?」

「ざっくり言えば、女の子関係。表向きには、方向性の不一致って発表するみたいだけど」

「そっか……」

尊敬してると言っていた。
あの人のベースは最高なんだ、と誇らしげに。

自分の憧れが壊れてしまうのは、どれだけつらいことだろう。
音楽の技術面と本人の人間性をすっぱりと切り離して考えられる人もいるだろうけど、綴はそういうタイプではないだろう。

あのさ、と言って綴は顔を上げた。

「俺、ちゃんとするから」

「ちゃんと……?」

「いままでだって遊びでバンドやってたわけじゃないけど、もっと真剣にできたんじゃないかって後悔もある。本当に、ぜんぜん追いつかないんだ。毎日毎日どんなに練習しても、うまくなってるのか自信がない。むしろ下手になってるんじゃないかって気すらする。きっと俺が加入するって知ったら、いまのファンの人たちはがっかりする。もっとうまい、実力のあるベーシストがよかったって」
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