変 態 ― metamorphose ―【完】
「でも、そのバンドの人たちは綴がいいから、綴に声をかけたんでしょ? そんなに後ろ向きに考えなくてもいいんじゃない?」

「そうだけど……」

涼し気な目元は、少し会っていない間にずいぶんと鋭くなっていた。
それとはアンバランスに、不安のちらつく瞳。
まるで未完成の彫刻のようだ。

「とにかく俺、ちゃんとするから。ちゃんと成功するから」

その言葉は、自分自身に向けて鼓舞するために言っているように聞こえた。
メジャーリーグの世界に飛び込んだちびっ子は、屈強な選手たちのなかで一生懸命足掻こうとしている。

あたしはテーブルに置かれた綴の手をそっと握った。
しなやかですべすべしていた肌はすっかり硬くなっていて、まるで知らない手のようだった。

これからこの手はどうなっていくだろう。
もっと硬くなって、掴みたかったものを掴めるだろうか。

「うん、わかった。でも、無理しすぎないでね。ちゃんと休憩もとってね」

「うん」

「ところで、そのサングラスと帽子はどういうつもりなの」
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