変 態 ― metamorphose ―【完】
「前みたいに、ファンの人と出くわす可能性もあるかと思って。加入するバンドの事務所、そういうのにうるさいんだよ。似合ってない?」

「服の趣味が変わったのかと思った」

「本当はキャップなんて被りたくないよ。頭が蒸れて、将来ハゲるんじゃないかって不安になる。嫌だよ、ハゲたバンドマンとか」

「バンドマンは音で勝負するものじゃない?」

「そうはいったってさあ。いち花だって、彼氏がハゲってどう? うれしくはないだろ?」

綴のハゲてしまう将来のヴィジョンに、あたしがちゃんと存在してる。
そんなことがうれしくて、ハゲになってもデブになっても、もうなんだっていいと思った。

「そうだね。ふさふさの彼氏の方がいいかな」

意地悪く微笑むと、綴はしょげた。

ずらずらと箇条書きになっていた不安に、気持ちよく取り消し線が引かれていく。
不安はもう、どこにもない。

不安を抱えているのは、あたしより綴の方だった。

音楽のことはわからないし、あたしには綴にとっての音楽のようなものがない。
できることなら綴になって、綴の気持ちを、その苦しみを、わかりたい。
そしてそれをどうにかする(すべ)を知りたい。

吐露してくれた想いを想像することしかできないのが、歯がゆかった。
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