変 態 ― metamorphose ―【完】
――レモン果汁を入れると色が変わるから、よかったら試して。すごくきれいだから。
チカくんがそう言って紅茶を渡してくれたとき、指先が触れた。
心臓はその瞬間わずかに跳ねて次第に凪ぐと、あとにはもうなにも残らなかった。
綴への誤解が解けたあの夜。
一ミリの隙間もなく身体をぴったりと重ねて名前を囁かれれば、このうえない安心と幸福で満たされ、あたしも綴をよろこばせたくて仕方なかった。
――そういうこと、別にしなくていいよ。しなくても、じゅうぶんだし。
綴は少し恥ずかしそうに言ったけれど、無理にそうしたわけじゃなくて、あたしがそうしたかった。
自信がないとか、これまでの彼女と比べられたらどうしようとか、そんなことはどうでもよかった。
鼻にかかった甘く濡れた声も、シーツをぎゅっと握りしめる指先も、いやいやするように必死に逃げるくびれた腰も、すべてがかわいくて愛おしくて、びっくりするくらい胸が高鳴った。
心臓の誤作動は、あのときに修復したのかもしれない。