変 態 ― metamorphose ―【完】
「あと、これ」

チカくんはちいさな花束を差し出した。

空気を丸く包み込むような、ふうわりと開いた白い花弁。
秋枯れの夜に、甘い蜜の香りが舞い込む。

「ありがとう。ママ、よろこぶよ」

チカくんはわずかに首を振った。
前髪から透ける瞳が花弁のように、あたしを包む。

「これは、いち花に」

「あたしに……?」

「うん」

チカくんは軽く相槌を打ってコーヒーに口をつけた。
なんであたしに花を? と訊かなくても理由はわかった。

チカくんは、気づいたんだ。

うまく笑っていたつもりだった。
チカくんが餃子のタレをこぼしそうになればからかって、砂のように味のしないラーメンにはおいしそうな顔をして汁まで飲み干した。

それでもチカくんは気づいた。気づいてくれた。

嘘がつけないんだな、赤ちゃんには。

「今日は急に来てごめん。戸締り、しっかりしてね」

チカくんは三回目のごめんを言って、ソファーから腰を浮かしかけた。

はやく帰ってほしかった。
そうしないと必死にせき止めている涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちそうだった。
それなのに
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