変 態 ― metamorphose ―【完】
「コーヒーじゃなくて紅茶の方がよかったかな」

コーヒーを持ってくるりと振り返ると、一瞬で凍りついた。
さっきまでソファーに座ってキリンを鳴らしていたはずのチカくんは、ぼんやりと立ち上がって妊娠検査薬を手にしていた。

時間がゆっくり流れて、心臓だけがどくりどくりと鳴って、チカくんの唇が慎重にひらいた。

「……これって」

「ああ、友達に頼まれたの。実家暮らしで親の干渉がひどくて、バッグの中身まで見られるんだって。だから、代わりに買ってきてって頼まれちゃった。困るよね、こんな買い物」

気づかないで。詮索しないで。なにも訊かないで。

震える瞳に、震えるあたしが映る。

「どうしてそんな嘘つくの」

「嘘じゃないよ」

「頼まれて買ってきたものを、こんなふうにソファーに置くかな」

「バッグから落ちたのかも。さっきバッグの中身を入れ替えてたから」

「それに、いち花は人に頼まれて買ったものを勝手に開けたりしないと思う」

言い訳はもう、見つからなかった。
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