変 態 ― metamorphose ―【完】
「あ、チカくん」

今日も第一ボタンまできっちり留めたシャツを着たチカくんは、店の前で腕時計をちらちら確認していた。
予約している時間の五分前。
それくらいなら中に入れてもらえるだろうに、律儀なのか気弱なのか、店の扉を開こうとはしない。

また、白シャツか。

肉汁なんかで乳首染みパート2ができたらおもしろいな。
でもまさか、いい大人がそんなことしないか。

「えっ……。あの人が、チカくん?」

足を止めた綴が訊いた。

「そうだよ」

「いち花ママの年齢って」

「四十四」

だった(・・・)と心の内でつけ足す。

「俺、チカくんもそれくらいなんだと思ってた。見た感じ、三十そこそこ?」

「ううん。たしか、三十七だよ」

口をぽかんと開けた綴。
こちらに気づいたチカくんが大きく手を振った。
今日で三回目のその大袈裟な身振り手振りに、あたしはまた呆れた。
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