変 態 ― metamorphose ―【完】
それに今日のチカくんからは生気を感じられる。

綴と以前からの知り合いのように話し、高い熱量で音楽を語る。
チカくんの瞳がこんなふうに生き生きしているのをはじめて見た。
滑らかに話すのだってそうだ。

ママと会っているときは、どんなチカくんだったんだろう。

なんて考えていると、綴の言葉を思い出してしまった。

「あっちがうまいのかもしれない」。

あたしは食べ頃になったカルビをタレにどっぷりと浸して口に放り込み、浮かびかけた想像を外へと押しやった。
勢いをつけ過ぎたのかTシャツに微かにタレが飛んだ。

気をつけよう。あたしまで乳首染みはつくりたくない。
ナムルで口の中をさっぱりと切り替え、自分にそう言い聞かせる。

「そういえば、チカくんはいち花ママとは地元が同じだったんですよね」

「ああ。近所に住んでて、両親が出かけるときなんかは輝子さんの家に預けられたりした。輝子さんが地元を出てからは会うことなんてなかったから、春先にぐうぜんこっちで再会してすごく驚いた。歩いていたら、もしかしてチカくん? って輝子さんが声をかけてくれて」

心臓が止まるかと思った、とチカくんは宝物に触れるように言った。
頬がほのかに染まっている。
チカくんの頭のなかではママとの再会シーンが再生されているのだろう。

たぶん、ちょっとだけ美化されて。
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