変 態 ― metamorphose ―【完】
***
『四十物谷正愛』
病室のベッドに下げられたネームプレートを見て、チカくんの名前を胸のうちでなぞる。
正しい愛って、なんだろう。
あたしにはよくわからない。
わからない、けれど――かえちゃんと葛見さんがいっしょにいるのは、きっと正しくない。
ぜったいに正しくない。
それでもかえちゃんはあの男がやってきたら招き入れてしまうのだろう。
破壊された、完璧にきれいだったはずの世界に。
かえちゃんの様子を見る限り、あたしだけでどうにか出来る問題のようには、とても思えない。
「いち花ちゃん、今日も来てくれてありがとう。お兄ちゃん、いまトイレに行ってて。これ、よかったら飲んで」
美愛さんはチカくんのお母さんとそっくりの笑顔を浮かべ、あたしに緑茶のペットボトルを差し出した。
胸が痛い。
チカくんの怪我は、あたしのせいなのに。
消毒剤の匂いが鼻を突き、ペットボトルを握りしめた手のひらが水滴で濡れる。
「いち花?」
振り返るとチカくんが立っていた。
美愛さんの用意したねずみ色のスウェットを着て、わずかに微笑む。
頭に巻かれた真っ白な包帯は、くっきりと瞼に焼きついた。
『四十物谷正愛』
病室のベッドに下げられたネームプレートを見て、チカくんの名前を胸のうちでなぞる。
正しい愛って、なんだろう。
あたしにはよくわからない。
わからない、けれど――かえちゃんと葛見さんがいっしょにいるのは、きっと正しくない。
ぜったいに正しくない。
それでもかえちゃんはあの男がやってきたら招き入れてしまうのだろう。
破壊された、完璧にきれいだったはずの世界に。
かえちゃんの様子を見る限り、あたしだけでどうにか出来る問題のようには、とても思えない。
「いち花ちゃん、今日も来てくれてありがとう。お兄ちゃん、いまトイレに行ってて。これ、よかったら飲んで」
美愛さんはチカくんのお母さんとそっくりの笑顔を浮かべ、あたしに緑茶のペットボトルを差し出した。
胸が痛い。
チカくんの怪我は、あたしのせいなのに。
消毒剤の匂いが鼻を突き、ペットボトルを握りしめた手のひらが水滴で濡れる。
「いち花?」
振り返るとチカくんが立っていた。
美愛さんの用意したねずみ色のスウェットを着て、わずかに微笑む。
頭に巻かれた真っ白な包帯は、くっきりと瞼に焼きついた。