変 態 ― metamorphose ―【完】
「ほら、お兄ちゃんもいち花ちゃんにお礼言って」
「いえ、いいんです。お礼なんて、そんな……」
「お兄ちゃん、そろそろ落ち着いてよ。去年は実家の階段で足を踏み外すし、その前だって凍結した道路で滑って手首を痛めるし。検査に異常もないから家に帰る、なんて昨日の夜は言ってたけど、こっちとしては前科が多すぎて信用できないのよ。出来ることならこのまましばらく病院に置いておきたいくらいよ。だいたいお兄ちゃんはね」
美愛さんはチカくんのお母さんを上回る怒涛の勢いでしゃべり倒した。
反論する余地はどこにもなく、チカくんが生真面目にぺこぺこ頭を下げると、今度は「ちょっとちょっと! 頭動かさないでよ! なにやってるの!」と叫んだ。
荷物をまとめて病室を出ると、チカくんは会計へ向かった。
美愛さんは待合用のソファーに座るなり、深いため息をついた。
「本当に、よかった……」
病室で見せた顔とは違う、解放されたほどけた横顔。
ごめんなさい。
ずくずくと痛む胸のうちで謝る。
あたしの視線に気づいた美愛さんは、すぐに笑顔をつくった。
「いえ、いいんです。お礼なんて、そんな……」
「お兄ちゃん、そろそろ落ち着いてよ。去年は実家の階段で足を踏み外すし、その前だって凍結した道路で滑って手首を痛めるし。検査に異常もないから家に帰る、なんて昨日の夜は言ってたけど、こっちとしては前科が多すぎて信用できないのよ。出来ることならこのまましばらく病院に置いておきたいくらいよ。だいたいお兄ちゃんはね」
美愛さんはチカくんのお母さんを上回る怒涛の勢いでしゃべり倒した。
反論する余地はどこにもなく、チカくんが生真面目にぺこぺこ頭を下げると、今度は「ちょっとちょっと! 頭動かさないでよ! なにやってるの!」と叫んだ。
荷物をまとめて病室を出ると、チカくんは会計へ向かった。
美愛さんは待合用のソファーに座るなり、深いため息をついた。
「本当に、よかった……」
病室で見せた顔とは違う、解放されたほどけた横顔。
ごめんなさい。
ずくずくと痛む胸のうちで謝る。
あたしの視線に気づいた美愛さんは、すぐに笑顔をつくった。