変 態 ― metamorphose ―【完】
「今回のこと、ごめんなさい……」

泣きだしそうなひどい声。
こんなふうに謝るのは卑怯だ。
こんなの、赦しをもらって楽になりたい人間の謝り方だ。

自分の弱さを見せて、相手の優しさにつけこんで。

「顔、上げて」

大きな手が、あたしの肩をそっと支える。
そのあたたかさに心がほどけかけて、振り払うように首を左右に振ると、チカくんは身体を屈めた。

ちいさな子どもと話す親のように、あたしに目線を合わせる。

「謝ってるのは、怪我のこと?」

唇をぎゅっと結んで首を縦に振った。

「怪我のことはいいよ。でも、嘘はやめてほしかった」

「つ、綴のことは……」

「おれはいち花との距離を間違っていたのかもしれない」

チカくんはばっさりと、温度のない声で言った。

さっきまで繋いでいた手をとつぜん離されたように、不安に襲われる。
いっしょに心地よく宙に揺られていたはずの手は、途端に遠くなった。
< 276 / 286 >

この作品をシェア

pagetop