変 態 ― metamorphose ―【完】
あたしは何度も「嫌だ、別れたくない」と言って、綴は何度も「本当にごめん」と繰り返し謝った。

はじめてだった。
あたしの人生で、こんなにも縋ったりするのは。

恥ずかしいとか迷惑とか、そんなことを考える余裕はどこにもなくて、同情でもなんでもいいから、とにかく引き止めたかった。
一分でも一秒でも会話を繋いで、綴の心が少しでも傾いてくれないか、焦れるように願った。

「別れるなら死んでやる」。
そう脅す人の気持ちがほとんどわかりかけて、そこにいっては駄目だ、とどうにか自分を踏みとどまらせた。


もう無理なんだ、と悟ったのは「このままいっしょにいたら、俺があいつらの子どもなんだって自覚するから」と言われたときだった。

ああ。そういうことだったのか、とカラオケでの出来事が腑に落ちた。

自分にあってはならない「あいつら」の要素を痛感してしまった綴に、そのきっかけをつくった張本人であるあたしが「別れないで」と縋るのは残酷だと気づいた。
だけどその一方で、これだけいっしょに過ごしてきたのに、こんなにも突然の別れはおかしいとも思った。
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