変 態 ― metamorphose ―【完】


――せめて最後に。最後に、もう一度会ってくれない?


あたしからの最後のお願いを、綴は「会ったら決心が鈍るから」と断った。

鈍るくらいの決心なら別れないでよ!
叫びそうになって、必死にのみこんだ。

いっしょにいない方が不自然で、離れたら死んでしまう、と心も身体も細胞も、あたしのすべてが叫んでいた。


だけど、あたしといては綴がしあわせになれない。


もし、綴の育った環境が違っていたら?
そしたら状況はもっと違っていた?

そんなことを考えたけれど、なにかひとつでも違っていたら綴とあたしが出会っていたかだってわからない。

どんなことでも、ひとつだって欠けてしまえば「いま」は違うものになる。


「いち花、来てたの?」

人波をかき分けてやって来たかえちゃんは、頬を上気させてうれしそうに笑った。
ちいさなライブハウスでベースを弾く綴を見てきたかえちゃんにとっては、思うところがあるのだろう。
こんな笑顔はひさしぶりだった。
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