変 態 ― metamorphose ―【完】
綴とあたしが別れた数日後に、かえちゃんも葛見さんと別れた――というより、終わった。

ぼんやりと眺めていたテレビに葛見さんが映ったときは、吐き気がした。
陽に晒された金髪はからからに干からび、淀んだ目は恨めしそうにこちらを睨んでいた。

テロップには「容疑者」の敬称と「わいせつ行為」の文字が並び、アナウンサーは「さらに余罪があるものとみて調べを……」と抑揚なく告げた。

そうして葛見さんは裁かれた。
あたしはなんとかこの世界を完璧には嫌わずにすんだ。

「すごいね。綴さん、めちゃくちゃかっこよかったね!」

「うん。ライブのこと教えてくれてありがとう」

友達の友達の彼氏の友達がバンドのメンバーと仲がいいらしくて、そこから情報がね、とかえちゃんはこっそり教えてくれた。
あたしは少し笑った。

「いち花、このあと予定ある? 友達とお茶しに行くんだけど、いち花も来ない?」

「ごめん。これから人と約束があって」

「ああ、八重子さんだっけ?」

「うん。ちょうど東京に用事があるから食事に行くわよ、どこか案内しなさい! って……」

あたしがもごもご言うと、かえちゃんはくすくす笑った。

「いち花のおばあちゃんとは思えない強引さだよね。じゃあ、また今度お茶しよ。それにしても、こんなに人がいるところでぐうぜん会えたって、けっこう奇跡だよね。この前のチカくんも」

「ああ……。そうだね」

「じゃあ、友達待たせてるから。またね」

かえちゃんはくるりと身を翻した。

スカートの裾から覗く花模様のレース。
弾むように揺れるパープルのカールヘアからは綿菓子の香り。
青紫に染められた身体は晴れやかに生まれ変わり、人波に向かって走りだした。
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