変 態 ― metamorphose ―【完】
――チカくんって、いち花と似てるね。
そんなふうに思ったことは、自分では一度もなかった。
どこが似ているのかと訊くと、かえちゃんは「雰囲気。暗いわけじゃないんだけど、なんかしっとりしてて影っぽいところが似てるよ」と無邪気に言った。
似ているのは、そういうことなんだろうか。
あたしと同じめずらしい血液型。
あたしを身ごもる前に「どうして私だけ」と繰り返していたママ。
あたしの偽った年齢を聞いたときのチカくんの安堵した表情。
どれもこれも、ちいさなこと。
どこにも確かなものはない。
それでもあたしは、ふとしたときにその可能性を考える。
あたしがひとりで抱えているのは、いけないことだろうか。
チカくんに背負わせたくないと考えるのは、間違っているだろうか。
正しい愛がわからないあたしには、答えがまだわからない。
うつむいてため息をつくと、足元の枯葉は静かに終わりの音を立てた。
ちりぢりになった葉の間で、なにかが鈍くひかる。
拾い上げると、それは綴の名前の入ったピックだった。
削れて原型を留めていない、真っ黒なピック。
細い白線で描かれているアベリアの花は、あの器用な指で激しく愛でられ、ところどころ剝げていた。
綴とあたしは溶けてひとつにはなれなかったし、ずっといっしょにいることも叶わなかった。
それじゃあどうして出会ったのだろう。
そんなふうに考えて感傷に浸ることもあるけれど、綴と出会わなかった人生の方がよほど哀しい。
なにかを与えて、なにかを与えられて、なにかを失って。
そうやって変態を繰り返しながら日々は流れていくだろう。
もし。またいつかぐうぜんが重なって、どこかで出会えたら。
そのときは、きっと。
―― 了 ――